電力消費の大きさだけでは、転換の進み方は分からない
世界の電力消費量や再生可能エネルギーへの転換を考えるとき、発電量や電源構成の数字に目が向きやすい。しかし、電気がどの産業で、どのような工程に使われているかを見なければ、社会の変化は十分に捉えられない。
日本の公的統計には、産業別の電力消費を追うための資料がある。そこでは、紡績や染色整理といった製造工程ごとに、電力消費が記録されている。これは世界全体の電力消費量を直接示す統計ではないが、電力需要が単なる「総量」ではなく、産業活動の組み合わせとして現れることを理解する手がかりになる。
たとえば、紡績の電力消費は、平成20年に555566、平成21年に429154、平成22年に406905だった。いずれも調査対象年の数値であり、単位や集計範囲を確認せずに、他国の電力消費や世界全体の発電量と単純比較することはできない。
| 産業区分 | 電力消費 | 時期 |
| 紡績 | 555566 | 平成20年 |
| 紡績 | 429154 | 平成21年 |
| 紡績 | 406905 | 平成22年 |
| 染色整理の合計 | 52412 | 調査時期201012 |
この表から読み取れるのは、数値の大小だけではない。同じ「電力消費」でも、産業区分、集計方法、調査時期が異なれば、意味は変わるということである。
再エネ転換は「供給側」だけの話ではない
再生可能エネルギーへの転換は、太陽光や風力などの設備を増やす問題として語られがちだ。しかし、実際には、どの産業がどれほど電力を使い、需要の時間帯や地域がどう分布しているかによって、電力システムの課題は変わる。
電力を多く使う工程がある場合、再エネ電源を増やすだけでは十分とは限らない。発電量の変動に合わせて生産時間を調整できるのか、電力を安定して届ける送配電網があるのか、需要側で効率化できるのか、といった論点も関係する。反対に、電力消費の変化を見ずに供給設備だけを比較すると、転換の実態を見誤る可能性がある。
産業統計は、再エネ比率のような華やかな指標とは異なり、暮らしや製品の背後にある電力需要を示す。紡績や染色整理のデータは、衣料品などの生産が電力と結びついていることを示す一例である。エネルギー転換を考える際には、発電所の種類だけでなく、電力がどの工程に流れ、どのような経済活動を支えているのかを確認する必要がある。
国際比較で注意すべき「数字の境界」
各国の電力消費量を比べる場合、統計の対象範囲をそろえることが重要になる。国全体の消費量と、特定産業の消費量は異なる指標である。また、産業分類、調査対象となる事業所、集計期間、単位が一致しなければ、数字の差が実際の電力利用の差なのか、統計の作り方の差なのか判断しにくい。
日本の読者が世界の再エネ転換を読む際にも、この視点は有効だ。ある国で再エネ発電が増えていても、その電力がどの産業や地域で使われているかによって、社会への影響は異なる。さらに、国内で消費される製品の生産が国外に移っている場合、国内の電力消費だけでは製品を支える電力需要全体を把握できない。
したがって、世界の電力消費量を一つの順位や比率で理解するのではなく、総量、産業別需要、調査範囲を分けて読むことが欠かせない。再エネ転換の現在地も、供給側の数字と需要側の統計を組み合わせて初めて、より具体的に見えてくる。
出典
- 経済産業省「経済産業省生産動態統計調査」 https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003044208
- 経済産業省「経済産業省生産動態統計調査」 https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003044206